大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 昭和60年(行ウ)7号 判決 1987年1月29日

原告 西宮市職員労働組合

被告 西宮市公平委員会

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五九年六月二三日付でなした西宮市公平委員会規則第二号の制定処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本案前の答弁

主文と同旨。

2  本案の答弁

(一) 原告の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和五九年六月二三日、地方公務員法(以下「地公法」という。)五二条四項に基づき、西宮市公平委員会規則第二号(他の職員と同一の職員団体を組織することができない管理職員等の範囲を定める規則の一部を改正する規則。以下「本件規則」という。)を制定したが、その内容は、他の職員と同一の職員団体を組織することができない管理職員等の範囲を定める規則(昭和四一年西宮市公平委員会規則第一号)につき、右管理職員等として西宮市立中央病院の「看護婦長」を新たに加えるというものであつて(従前は、同病院の看護婦については、「総看護婦長」及び「副総看護婦長」のみが右管理職員等とされていた)、この結果、今まで原告組合の組合員であつた同病院の看護婦長九名は、他の職員と同一の職員団体を組織することができない管理職員等(いわゆるI・L・O職員)に該当するところとなり、原告組合の組合員資格を剥奪された。

2  本件規則の制定処分は、内容的にも手続的にも違憲違法なものである。すなわち、

(一) 地公法五二条三項は、管理職員等と管理職員等以外の職員(以下「一般職員」ともいう。)が同一の職員団体を組織することができない旨を規定するが、これは一般職員が結成している職員団体の自主性を確保するにあることはいうまでもない。ところが、同項が定める管理職員等の範囲は広きにすぎ、同項は、却つて一般職員の団結を抑圧する手段と化し、憲法二八条違反の疑いが濃い。したがつて、これを憲法に適合するよう解釈するには、管理職員等の範囲をその機能が政策の決定又は管理であると通常考えられる高級職員あるいはその職務が高度に秘密の性質をもつ職員に限定することが必要である。

一方、本件規則制定前から西宮市公平委員会規則をもつて右管理職員等とされている総看護婦長及び副総看護婦長と、看護婦長とは、従前、

(1) 総看護婦長及び副総看護婦長が日常、看護婦詰所にはおらず課長室に机を並べているのに対し、看護婦長は一般の看護婦とともに右詰所に常駐している。

(2) 総看護婦長及び副総看護婦長は、特別な場合を除いて患者を診察するなど患者の管理に当たることがないのに対し、看護婦長は一般の看護婦と同様、患者の管理をその職務内容としている。

(3) 総看護婦長及び副総看護婦長は看護婦の人事(配転等)に関与するが、看護婦長はこれに関与していない。

などの相違があり、看護婦長の右職務権限は現在も変更されていない。

しかるに、被告は、本件規則の制定によつて看護婦長を右管理職員等に含ましめ、もつて、原告組合の弱体化を狙つたものであつて、被告の本件規則の制定処分は、その内容において違憲違法なものである。

(二) また、組合の組織対象ないし構成すべきメンバーの範囲は、組合自治の原則に従つて組合が自主的に決定すべきものであり、使用者が右範囲の決定に介入することは、それだけで不当労働行為となるが、この理は公務員たる労働者の場合であつても基本的には同様である。したがつて、本件のように組合員資格の存否にかかわる規則制定の場合、関連する組合の意向を十分に聴き、その意見を取入れたうえでなければ、右制定は合憲適法なものとはいえないところ、被告は、原告組合を全く関与させることなく本件規則の制定処分をなし、原告組合における組合員資格を一方的に剥奪したものであつて、被告の本件規則制定処分は、手続的にも憲法二八条に違反し、違法なものである。

3  被告は、昭和五九年六月二五日、原告に対し本件規則の制定処分につき通知をしたので、原告は右処分に対し、同年八月一三日、異議申立(以下「本件異議申立」という。)をしたところ、被告は、同年一一月二四日、原告組合は異議申立人としての資格要件を欠きかつ本件の規則制定には処分性がないことを理由として、本件異議申立を却下する旨の決定をなした。

よつて、原告は本件規則制定処分の取消を求める。

二  被告の本案前の主張

1  本件規則の制定は処分ではない。

一般に、公平委員会が地公法五二条四項に基づき公平委員会規則で管理職員等の範囲を定めることは、公平委員会の「規則」の制定であり、処分ではない。したがつて、被告が同項に基づきなした本件規則の制定も処分ではない。

2  本件規則の制定が処分であるとしても、本件訴訟は出訴期間を徒過している。

(一) 本件規則の制定が処分であるとすれば、これに対する不服申立方法としては、地公法四九条の二に基づくもの(不利益処分に対する不服申立)と行政不服審査法(以下「行服法」という。)四条に基づくもの(処分についての不服申立)とが考えられるところ、前者は、被処分職員の個人的利益の救済を目的とするものであつて、その申立権は任命権者に対する被雇用者(職員)の権利であるといえるのに対し、後者は、国民的利益の救済及び行政の是正を目的としており、その申立権は国又は地方公共団体に対する主権者(国民)としての権限であつて、両者は、その制度の趣旨を異にし、しかも、その不服申立書の記載事項も異にしているから、両申立は、実質的にも手続的にも性質を異にするものといえる。

(二) ところで、原告がなした本件異議申立をみるに、原告がその申立書に記載した表題及び記載事項、さらに、昭和六〇年二月、原告が右の異議申立に対する却下決定につきなした再審請求において主張している「再審を請求する事由」からすると、右異議申立が地公法四九条の二に基づくものであることは明らかであつて、そうだとすると、原告の本件異議申立は、以下の事由により不適法なものである。

(1) 地公法四九条の二によると、同条に基づく不服申立ができる申立権者は処分を受けた「職員」であると規定されているところ、原告組合は、右の「職員」に該当しないから、右異議申立は、申立権者の適格を欠いた者による申立である。

(2) 同条に基づく不服申立は、職員がその任命権者のした処分についてなしうるものであるが、本件規則の制定は、本件看護婦長の任命権者である西宮市長のした処分ではないから、右規則の制定に対しては、同条に基づく異議申立はなしえない。

(三) 本件訴訟は、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)にいう取消訴訟であるから、その出訴期間は「処分又は裁決があつたことを知つた日から三箇月以内」(同法一四条一項)であり、また、「裁決を知つた日」から出訴期間を起算する場合は、その前提となる審査請求及び異議申立(同条四項)が適法なものであることを要するが、原告の本件異議申立は、右(二)のとおり、不適法なものであるから、本件訴訟は、原告組合が「処分」すなわち本件規則の制定を知つた日から三か月以内に提起されるべきであつた。

(四) しかるに、本件訴訟は、原告組合が本件規則の制定を知つた昭和五九年六月二五日から三か月を経過した後になされたものであるので、出訴期間を徒過している。

(五) なお、原告の本件異議申立は、申立人の代理人弁護士が検討のうえなされたものであり、しかも、前記(一)の二つの不服申立がその申立書の記載事項を異にしているのは、制度の目的が相違する右の二つの不服申立のうち、いずれの申立がなされたかを記載事項自体から明白にし、もつて、無用の混乱を避け、迅速に的を射た審理に入りうることを期した法意によるものであるから、原告の本件異議申立を行服法四条に基づく申立に流用したり、これを含む申立と拡張解釈することは相当でなく、このことは、法が、右の両申立の選択の誤りにつき行訴法一五条(被告を誤つた訴えの救済)のような救済規定を設けていないことからも明らかであり、したがつて、原告の本件異議申立を行服法四条に基づく適法なものとして取扱うことはできない。

3  さらに、原告は、本件訴訟について原告適格を有しない。

本件訴訟は、前記のとおり処分の取消訴訟であるから、行訴法九条により「処分取消を求めるにつき法律上の利益を有する者」がその原告適格を有するところ、原告は、同条にいう法律上の利益を有する者に該当せず、単に組合員数の減少という事実上の影響を受ける者にすぎない。

以上の理由により、原告の本件訴訟は不適法であるから却下さるべきである。

三  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。ただし、看護婦長は、単に原告組合の組合員資格を失つただけで、別に存在する西宮市管理職員等職員組合に加入する資格を有するから、団結権の侵害はない。

2  請求原因2の(一)のうち、総看護婦長及び副総看護婦長が本件規則の制定前から西宮市公平委員会規則で管理職員等とされていたこと、右規則制定の前後において看護婦長の職務権限に変更がないことは認め、総看護婦長及び副総看護婦長と看護婦長間の職務権限等の相違((1)ないし(3))は否認し、その余は争う。看護婦長の職務権限は、本件規則の制定以前から管理職員等に該当する性質を有していたが、従前、管理職員等に加えていなかつたため、本件規則改正により、これを是正したものである。また、原告組合員数は約二九〇〇名であるところ、わずか九名の看護婦長が原告組合員資格を失つたからといつて、原告組合の弱体化に影響を及ぼすものでもない。

3  同2の(二)は争う。地公法五二条四項が管理職員等の範囲を公平委員会の規則で定めることにした趣旨は、同項の管理職員等の範囲は本来客観的に定まるものであるが、労使間で紛争を生じがちな問題であるので、中立公平かつ専門的な機関によつてこれを定めることにしたことにある。したがつて、この範囲を労使間の交渉で決定したり変更したりすることはできず、この範囲の決定、変更は、専ら公平委員会の責任と判断で確認すべきものである。

4  請求原因3の事実は認める。ただし、本件規則の制定が処分性を有することについては、前記のとおり争う。

四  被告の本案前の主張に対する原告の反論

1  本件規則制定の処分性

一般処分の告示が個別的法益を直接左右する効果を示しているとみられる場合は一種の行政処分と認められるところ、本件規則の制定は、右の場合に該当し、処分性を有する。

2  出訴期間の遵守

(一) 原告組合は、本件規則制定処分のごときものが何らの制約もなく西宮市当局の指示により強行されれば、原告組合員の権利が剥奪され、その団結が侵害されるという重大な結果が生ずることから、これに対し法的に争いうるあらゆる根拠を検討し、一般的な行政不服の申立の方途のみならず地公法上の不服申立の方途も探り、右両申立の趣旨を含めて、昭和五九年八月一三日、本件異議申立に及んだものである。

被告は、前記のとおり、昭和五九年六月二五日、処分の相手方として原告組合に対し本件規則の制定処分を通知したが、その際、被告は、自らを「任命権者」とも、また、原告組合を「職員」とも考えてはいなかつたし、かつまた、原告組合は、右通知を受けた処分に対し不服申立をする意向を明らかにして、本件異議申立を行つたのであるから、被告としては、当然、右申立を、特別法である地公法上の不服申立であるばかりでなく、一般法としての性質を有し一般概括主義を採る行服法上(四条)の不服申立の趣旨をも含んでいるものとみるべきであり、実際、被告自身も本件異議申立をかように二義的に解釈していたことは、本件異議申立の却下決定をするに当り、右申立が地公法に基づくものであることを前提としてその当事者適格を云々する一方、本件規則制定の「処分性」を云々していることからも明らかである。

なお仮に、本件規則制定処分に対し右の二つの趣旨を含む不服申立ができないとすれば、被告はその申立の趣旨を釈明すべきであり、右釈明のなかつた本件においては、原告が右の二つの趣旨を含む申立をしたことにつき、被告は掣肘しえない。

そして、被告は、本件につき行服法(四条)上の異議申立に対する決定をしていないのであるから、そもそも、本件訴訟につき、出訴期間の徒過は問題とはならない。

(二) たとえ、原告組合の本件異議申立が地公法上のものであつて、右行服法上の不服申立の趣旨を含むものではないとしても、原告組合に、本件規則の制定処分を争う意思があつたことは当初から明白であり、また、行政手続上も原告組合が本件規則の制定処分を争つている状態が続いていたことは明らかであるから、本件においては、出訴期間の起算日は本件異議申立につき公平委員会の決定がなされたことを原告が知つた日とすることが、出訴期間の制度を設けた趣旨からいつて妥当である。

(三) したがつて、いずれにしても、本件異議申立に対する昭和五九年一一月二四日付の却下決定に対して昭和六〇年二月一九日になした本件訴訟の提起は、出訴期間内に行つたものである。

第三証拠<省略>

理由

一  原告組合は、被告がなした本件規則の制定を違法な行政処分であるとして、本件訴訟により、その取消を請求しているところ、被告は、右訴訟の適法性を争つているから、以下、本件訴訟の適否について判断する。

二  本件規則制定の処分性

1  本件訴訟は、行訴法に基づく取消訴訟であるから、本件訴訟が適法であるためには、まず、取消の対象である本件規則の制定が行政処分たる性質を有することを要する。

2  ところで、地公法五二条四項に基づく管理職員等の範囲を定める規則の制定は、右管理職員等に相当する職は本来客観的に定まつているわけであるが、その帰すうを廻つて労使間に紛争が生ずるのを避けるため、公平中立かつ専門的な機関である公平委員会等が規則の形式をもつて右職を創設するものであると解されるから、右規則は、法令の性質を有するものというべきである。

もつとも、法令であつても、その制定が、行政庁の具体的な行為を介在することなしに、直ちに国民の権利義務あるいは法的地位に対し具体的な影響を与える場合は、それは、法令の形式をもつてなされた一種の行政処分であつて、取消訴訟の対象となりうるものというべきであるが、かように法令が行政処分性を有するためには、当該法令が、形式的には一般法規範たる形式及び内容を備えるものであつても、当初から特定の者(又は客体)に対してのみその効果を及ぼすことを目的とし、ないしは、内容的に専ら特定の者(又は客体)に対してしか該当のしようがない性格を有していることを要するものと解するのが相当である。そう解さないと、法令と行政処分の区別が全く不明確になり、国民の権利義務等に関連する法令は、総て行政処分でもあるとみられる虞があるからである。

3  これを本件についてみると、本件規則は、前判示のとおり法令であるところ、その制定の趣旨とするところは、原告主張によれば、被告制定にかかる「他の職員と同一の職員団体を組織することができない管理職員等の範囲を定める規則」を改正し、右管理職員等として新たに西宮市立中央病院看護婦長を加えるというものであるから、本件規則の制定は、一般抽象的な「規則」の改正であるというべきものであつて、それが特定の看護婦長を対象としたものであるとは、にわかにいい難い。

(なお、証人畦布和隆の証言及び弁論の全趣旨によると、本件規則の制定当時、前記病院の看護婦長は、全員、原告組合の組合員であつたが、誰も原告組合の役職に就いておらず、目立つた活動をしている者もいなかつたことが認められ、したがつて、本件規則の制定が原告組合と関係のある特定の看護婦長を目当てとしたものともいうことはできない)。

4  そうすると、本件規則の制定は、単なる法令の改正にすぎず行政処分性を有しないから、取消訴訟の対象とはなりえないものというべきであつて、したがつて、本件訴訟は、取消訴訟の対象となりえないものに対し提起されたものとして、不適法というべきである。

三  出訴期間の徒過について

1  被告が、昭和五九年六月二三日、地公法五二条四項に基づき本件規則を制定し、これを同月二五日に原告組合に通知したこと、及び、原告組合が、同年八月一三日、本件規則の制定を不服として本件異議申立をしたことは当事者間に争いがなく、また、本件訴状の受付印によれば、本件訴訟は、昭和六〇年二月一九日、提訴されたことが認められ、なおまた、本件規則の制定に処分性があるとしても、これに対する本件異議申立が適法でなければ、本件訴訟については、行訴法一四条四項の適用の余地がないものと解されるから、仮に右申立が不適法な場合、本件訴訟は、原告組合が本件規則の制定を知つた日から三か月を経過した後に提起された訴えとなり、同条一項の定める出訴期間を徒過したものとなる。

そこで、本件異議申立の適否につき以下検討する。

2  まず、本件規則の制定に対する不服申立の方法としては、地公法四九条の二に基づくものと行服法四条に基づくものとが考えられるところ、原告組合は、前者を選択し、これを法的根拠として本件異議申立をしたものと認められる。すなわち、

(一)  成立に争いのない甲第五号証の二は、本件異議申立にかかる申立書であるが、その表題には「不利益処分に対する異議申立書」と記載されている。

また、その記載事項も、右甲第五号証の二と成立に争いのない乙第七号証(「不利益処分についての不服申立てに関する規則」)を対比すると、地公法四九条の二に基づき被告に対し不服申立をする場合に要求される申立書の記載事項(同法第五一条に基づき、被告の制定にかかる、不利益処分についての不服申立てに関する規則四条二項所定のもの)に従つて記載されたものであると認められ、殊に、右申立書の記載事項のうち、「処分を受けた者」の記載は、行服法四条に基づく不服申立ではその性格上要求されておらず(行服法一五条一項、四八条参照)、また、「口頭審理を請求する場合はその旨及び公開または非公開の別」の記載も、行服法四条に基づく不服申立の場合には定めがなく(前同条項参照。これは、地公法上の不服申立をする場合に、同法五〇条の要請により、特に記載事項として定められたものといいうる)、したがつて、行服法四条に基づく不服申立としては不要な記載事項が、右申立書に記載されていることになるわけである。

(二)  成立に争いのない甲第七号証(本件異議申立の却下決定に対する原告組合の再審請求書)によれば、原告組合は、本件異議申立の却下決定について、被告に対し、前記不利益処分についての不服申立てに関する規則一五条に基づく再審の請求を行つていること、及び原告組合は、「職員」に準ずる立場から前記異議申立をしていることが認められる(「再審を請求する事由」第五項、第八項参照)。

(三)  原告組合は、本件訴訟手続中でも、本件訴訟について訴願前置主義が適用されることを当然の前提とした主張をなしているが(昭和六〇年九月一七日付原告準備書面第一項後段参照)、地公法に基づく不服申立と訴訟との関係においては訴願前置主義の制約があるものの(同法五一条の二参照)、行服法四条に基づく不服申立と訴訟との関係ではそのような制約はない。

(四)  以上認定説示の諸点を総合考量すれば、原告組合は、意識的に地公法四九条の二を法的根拠として、本件異議申立を行つたものと認められる。

3  ところで、地公法四九条の二は、職員の身分保障を実効あらしめるため、行政上の救済手続として設けられたもので、同条に基づく異議申立ができる者は不利益処分を受けた職員に限られ、原告組合にはその申立権はない。

すると、原告組合のした本件異議申立は、申立人の適格を欠く不適法なものであつて、結局、本件訴訟は、出訴期間の経過した後に提起したものであるといわねばならない。

4  もつとも、原告組合は、右の諸点について種々反論しているから、以下、これについて検討を加えることとする。

(一)  原告組合は、本件異議申立には、地公法に基づくもののほか、行服法四条に基づく申立の趣旨をも含んでいる、と主張するが、行服法は、国民一般に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開き、もつて、国民と行政庁との間の、すなわち一般権力関係における行政上の救済を行うことを目的とするものである(同法一条一項参照)のに対し、地公法四九条の二は、前判示のとおり、職員についてその行政上の救済を目的とし、行政庁の内部関係すなわち特別権力関係における問題を取扱うものであるから、両者はその法的性質を異にし、したがつて、その手続構造も異なる等、前記2認定説示のところを勘案すると、本件異議申立が行服法四条に基づく不服申立の趣旨をも含んでいるものとは、にわかに認めることができない。なおまた、右両者の性質の相違に加え、前掲甲第五号証の二、甲第七号証により、本件異議申立並びに前記再審請求は原告の代理人たる弁護士が検討したうえ、これを行つたものであると認められること及び右不服申立方法の選択の誤りにつき、行訴法一五条(被告を誤つた訴の救済規定)のような救済規定がないことに徴すれば、本件異議申立を行服法四条に基づく申立に流用することもできないものと認めるのが相当である。

したがつて、原告組合の前記主張は、採用することができない。

(二)  原告組合は、本件異議申立の経緯に鑑みると、右異議申立には前記両者の不服申立を含むものとして取扱うべきであるし、実際、被告自身も、本件異議申立が右両者の不服申立を含んでいるように二義的に解釈してきた、と主張しているが、しかし、全証拠によるも、そのような事情は窺うことはできない(却つて、前判示のところからすれば、当事者間においては、本件異議申立はその一方の不服申立のみがなされたものとして取扱われてきたものと認められる。)し、また、原告組合の主張する如く、地公法上の不服申立と行服法上の不服申立とがいわゆる特別法と一般法の関係にあるとの一事をもつて、直ちに、本件異議申立が、右両者の不服申立の趣旨を含んでいるものとは解しえず、なおまた、原告組合主張のように、本件異議申立の却下決定をするに当り、被告が本件規則の「処分性」等を云々していたからといつて、これをもつて、被告自らが本件異議申立を二義的に解釈していた証左にもなり難い。

もつとも、原告組合は、本件異議申立が二義的に把握できないものであるならば、その申立の趣旨を予め被告において釈明すべきであつた旨を主張するが、本件事案の内容並びに前記4(一)認定のとおり本件異議申立に当つて法律専門家である弁護士の関与があつたことを勘案すれば、被告による右釈明の必要もないものと解するのが相当である。

したがつて、原告組合の前記主張も理由がない。

(三)  最後に、本件訴訟の出訴期間について、原告組合は、取消訴訟の出訴期間制度の趣旨から、本件規則の制定処分を引続き争つてきた原告組合については、行訴法一四条四項を適用して、原告組合が本件異議申立の却下決定を知つた日から出訴期間を起算すべきである、と主張する。

しかしながら、行訴法における出訴期間の制度は、行政処分が単に処分の相手方の利害ばかりでなく、一般公共の利害にも大きく係わるものであることを慮つて、行政処分の効力を早期に確定させるため設けられたものであるから、原告組合が本件規則の制定を引続き争つていたとしても、本件異議申立が不適法と認められる以上、本件訴訟については行訴法一四条一項を適用するほかなく、これに反する原告組合の右主張は、採用することができない。

(四)  したがつて、原告組合の反論は、全て認めることができず、他に、前判示を左右する事由は見当らない。

5  そうだとすると、仮に本件規則の制定が行政処分の性質を有するとしても、本件訴訟は、出訴期間を徒過した後に提起されたものとして、不適法といわざるをえない。

四  以上の次第で、本件訴訟は、いずれにしても不適法であるから、その余の点について判断するまでもなく、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 砂山一郎 貝阿彌誠 野中百合子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例